大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和37年(う)25号 判決 1962年7月11日

被告人 北竹清剛

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役一年及び罰金二十万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

但し、本裁判確定の日から四年間、右懲役刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用中証人佐藤利夫に支給した分は、被告人の負担、その余の証人に支給した分は、被告人と原審相被告人福島清太郎の連帯負担とし、当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

弁護人控訴趣意第一点について、

論旨は要するに、原判決は、被告人の本件所為を、業として不特定且つ多数の者から預り金をしたものとして、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第二条違反罪に問擬しているが、右は事実を誤認し、法令を誤用したものである。原判決が不特定且つ多数の者と認定している藤尾昌子外七百七十九名は、多数ではあるが不特定ではなく、又本件金銭の受入れは預り金ではなく、ミシンの製造販売を目的とする産経株式会社の資金繰りの一環としてなした単純な借入金であり、消費貸借契約による純然たる融資金である。従つて又業として預り金をしたものでもないから、被告人は無罪たるべきである、というのである。

よつて記録を調査し、原審で取調べた証拠を検討するに、被告人はもともと原判示佐賀県退職公務員連盟の会員を対象とすることゝして同会員から金銭を受入れることゝしたものであること正に所論のとおりであるが、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第二条にいわゆる「不特定且つ多数の者」にいう「不特定」とは、特定していないことを指称するものであるから、たとえ一定の団体又は集団に所属する者に限定されていても、金銭の受入者と親族、知己等と言つた特殊な個人的つながりがあるような場合であつて、極く小範囲の者に限られた団体等であれば格別、所属員が相当多数であつて右のような個人的つながり等もなく、つまり個別的な認識もないような場合においては、単に一定の団体等に所属する者と限定したゞけでは、未だもつて特定しているものとは言い得ないと解する。本件についてこれを見るに、原判決挙示の証拠によると、前示佐賀県退職公務員連盟は、会員の生活確保と社会福祉の増進に寄与することを目的として、佐賀県在住の恩給受給者たる退職公務員並びに扶助料受給者を以つて組織することゝしている団体で、その加入及び脱退は自由であるので会員は必ずしも固定しておらず、且つ本件当時は三千五百名位の多数の会員を擁していたこと、及び原判示藤尾昌子外七百七十九名は、右連盟の会員を主体とするものではあるが、一部会員の親族、知人等も含まれておるのみならず、本件金銭の受入者たる被告人等との間に格別個人的つながり等なく、もとより個別的な認識関係にあつたものではないことが窺知できるので、前示趣旨に徴し、これを不特定の者と言うを憚からない。

又右証拠によると、被告人は、前示佐賀県退職公務員連盟の会員等に利殖の途を与える目的で、原判示産経株式会社を設立し、同会社の借入金名義で右会員等より期限三ヶ月、利息月平均三分の約束で金銭を受入れ、出金者にはその旨の約束手形を差入れることゝし、以て原判示藤尾昌子外七百七十九名より同判示金銭の受入をしたものであり、右藤尾昌子等は、被告人の手腕を期待し、安全有利な利殖方法として、約旨のとおりの利息を附し確実に元本を返還してくれるものと信じて本件金銭を差出したものであることが明認されるので、被告人の本件所為は、借入金名義を用いてはいるが、その実質は前示法律にいわゆる預金、貯金又は定期積金の受入等と同様の経済的性質を有する金銭の受入に該当し、所論のように、単なる右会社の資金の借入とはなし難い。(尤も右会社において本件により受入れた金銭をもつてミシンの製造販売をなした事実が証拠上窺われないではないが、経過的には、右事業のため本件金銭を受入れたというよりも、むしろ、右受入れた金銭の利殖方法として右営業をなしたものと認められる。)尚、被告人は、前示目的で、原判示のように、約一年半に及ぶ長期間内、多数回にわたり本件金銭の受入れをなしているものであるから、これを業としてなしたものと認定するのが相当である。

果してそうだとすると、叙上説示するところと同趣旨に出でた原判決の判断は相当であり、原判決には所論のような事実の誤認あることなく、もとより法令誤用の違法も存しないので、論旨は理由がない。(以下理由省略)

(本件は量刑不当により破棄自判)

原判決の認定した事実に同摘示の各法条を適用し、所定刑中懲役及び罰金の併科刑を選択して被告人を主文第二項の刑に処し、罰金不完納の場合の換刑留置につき、刑法第十八条第一項を、懲役刑の執行猶予につき、同法第二十五条第一項を、原審及び当審における訴訟費用の負担につき、刑事訴訟法第百八十一条第一項、第百八十二条(連帯負担の点についてのみ)を、各適用し、主文第三項ないし第五項のとおり定める。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 青木亮忠 木下春雄 内田八朔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例